自己破産をするときに退職金がある場合、その退職金はどのように扱われるのでしょうか。
自己破産で退職金は財産として扱われる
まず、前提として自己破産というのは借金がなくなるかわりに、財産もなくなります。
財産をまず債権者にわたして、それでも残った借金を免除してもらうのが自己破産という手続きです。
そして、退職金も退職すればお金にかわるので、財産です。
そのため、自己破産をする時に退職金も債権者にわたす必要があります。
勤務先を強制退職?
しかし、退職金は財産と言っても現金ではありません。実際に退職して現金化しない事には債権者にわたせません。
それでは、自己破産をすると会社を退職しないといけないのでしょうか。
そんなことはありません。
仕事は生活をしていくためにも必ず必要な事です。自己破産をするからといって、失業させられたのでは何のために自己破産をするのかわかりません。
いくら多額の退職金があったとしても、自己破産をする事で会社の強制退職までは求められませんのでご安心ください。
では、実施に会社を辞めないのにどうやって退職金を債権者にわたすのでしょうか。
退職金相当額を一括で払えるお金を持っていればよいのですが、通常自己破産をするときにそんなお金はありません。
そのため、実務的には毎月給料等から余ったお金を積立て(貯金)し、退職金相当額のお金が貯金できたらそれを債権者にわたすという事をしております(法律的には破産財団への組み入れと言います)。
また、勤務先や親族からお金を用立てしてもらい、一括で払う方もいらっしゃいます。そうする事で会社を退職しなくても自己破産の手続きを進めて行く事ができます。
自己破産をする時の退職金の評価額はいくら?
次に自己破産をするときに退職金として、いくらの額を債権者にわたさなければならないのでしょうか。
仮に今退職すると退職金が1,600万円でるケースで説明します。
この場合、退職金相当額まるまるの1,600万円を債権者にわたさなければならないというわけではありません。
なぜかと言いますと、給料や退職金は従業員の毎日の生活にとても重要なものです。
そのため、給料などは4分の3は債務者の生活のため、差し押さえができないという法律があるからです。
また退職金は実際にもらえるのは遠い将来であり、そこまで債権者の期待もないことから、さらに価値がうすめられます。
具体的には8分の1と評価されます。
そのため1,600万円の退職金でも、8分の1の200万円の財産と評価されます。
自由財産の拡張申立て
さらにそれだけではありません。
自己破産手続では破産をする人の当面の生活も保障する必要があります。
具体的には99万円が今後3カ月の破産者の生活に必要とされています。
そのため、申請すれば、総額の財産からこの99万円を引く事ができます。
(これを自由財産拡張の申立てと言います)。
仮に以下の財産があるとします。
- 退職した場合の退職金1,600万円
- 貯金10万円
この場合、以下のように計算します。
- 退職金の評価額1,600万円÷8=200万円
- 退職金の評価額200万円+貯金10万円=総資産額210万円
- 自由財産拡張申立てにより210万円-99万=債権者分配額111万円
このように退職金の評価額が8分の1になるだけではなく、99万円の生活費控除でさらに総財産は減ります。
1,600万円もの退職金が実際に債権者にわたすお金はだいぶ少なくて済むのです。
いかがですか。思ったより少なくて済むと思いませんか。
実際には破産者の財産の債権者への引き渡しは管財人が行います。その管財人選任費用は別途かかります。
しかし、それらの費用をふまえた上でも、退職金は破産手続で相当守られるということがおわかりいただけたかと思います。
評価額が8分の1でないケース
なお、上記のように自己破産の際に退職金が8分の1と評価されるのは、実際に退職金がもらえるのは定年時であって遠い将来の話だからです。
もし定年が間近にせまっている場合は退職金の評価額も4分の1に評価されてしまうのでご注意ください。
自己破産と退職金証明書
なお、自己破産の際に退職金の額をどのように証明するかです。退職金は〇〇円と何の裏付けもなしに申告しても裁判所では認めてくれません。
証拠を提出する必要があります。
具体的には退職金額を証明するものを勤務先に作成してもらいます。そしてその証明書に会社の社判を押してもらったものを提出します。
退職金証明書 当社が当証明書発行日現在で下記従業員に支給する予定の退職金は下記のとおりです。 記 ・従業員の氏名 甲野太郎 ・退職金の支給予定額 金 円 令和 年 月 日 ・所在地 大阪市〇〇区〇〇番地 ・名称 △×商事株式会社 代表取締役〇〇 会社の印鑑 |
勤務先に上記のような退職金証明書を作成してもらえばOKです。
ただこのような書類を勤務先に作成してもらうのをためらわれる方も多いかと思います。
その場合は退職金規程の提出でも大丈夫です。
ある程度の規模の会社でしたら、就業規則を作成しています。そして就業規則には、退職金に関する規定があるのが通常です。
そこには何年勤めていて、どういった役職なら退職金がいくらになるといった計算表が載っています。
この規定を根拠に現在の退職金の額を計算できます。
自己破産で自由財産となる退職金
なお、会社独自の退職金ではなく、他の外部団体に老後の資産形成を委託されている方も多いかと思います。(確定拠出型年金等)。
これらの給付金は老後の生活のための年金的な意味合いが強いです。そして個別の法律で差し押さえが禁止されている事があります。
そのような規定がある場合は、当該給付金は自己破産の際に退職金ではない債権者への引き渡し不要な財産として扱ってくれます。
- 確定拠出年金
- 確定給付企業年金
- 厚生年金基金
- 中小企業退職金共済など
上記の年金がその一例となります。
以上、自己破産の手続きで退職金がどのように扱われるか見てきました。
自己破産の手続きをきっちりすれば、借金はなくなり、かつ退職金も残す事ができるので、老後も安心です。
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