お勤めの会社に退職金制度がある場合、個人再生で退職金がどのように扱われるか解説いたします。
個人再生の退職金と清算価値
まず、前提として個人再生の手続きで退職金が没収されるという事はございません。ご安心ください。個人再生は自己破産と異なり、すべての財産を残せる制度だからです。
ただし今後の借金の返済額に退職金は影響を及ぼします。個人再生認可後の返済額というのは原則は下記のいずれか高い方となります。
①借金総額の5分の1(減額率は借金の総額によって異なります。5分の1は一般的なケースです)
②財産の総額(破産したときは債権者に分配されるので清算価値と言います)
例えば、借金が500万円の場合、①は5分の1の100万円です。また②の財産の総額である清算価値は200万円あるとします。
この場合、①より②の方が大きいので、債権者への返済額は200万円となります。
つまり財産が多ければ多いほど返済額は増えるのです。(これは当然です。債権者からすればたくさん財産があるのに、借金が大幅に減額されては納得できません。少なくとも持っている財産分くらいは返済してくれと言いたいわけです)。
そのため、退職金も多ければ多いほど②の財産の額が増え、連動して返済額も増えます。
退職金の清算価値組み込み額
退職金の評価額
では、退職金はいったいいくらの財産と評価されるのでしょうか。例えば現金なら評価はわかりやすいです。100万円の現金を持っていれば、それは100万円の価値です。
しかし退職金は会社を退職すればもらえるものであり、現実的に現金や貯金として保有しているわけではありません。
そのため、退職金はいくらとして評価すべきかが問題となるのです。
今会社を辞めた場合、800万円の退職金がでるとします。しかし辞めるというのは仮の話であって実際に退職するわけではありません。
にもかかわらず、仮に辞めたら退職金が800万円でるから、800万円の財産を持っていると評価されるのは酷です。
そのため時期にもよりますが、実際の退職金に一定の減額率をかけたものが退職金とみなされます。
時期による退職金の評価額
- ①退職予定がない場合
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仮に退職した場合の退職金額の8分の1
- ②退職していないが、もうすぐ定年を迎える場合
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仮に退職した場合の退職金額の4分の1
- ③すでに退職して退職金も受け取っている場合
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受け取った退職金の全額(ただし大阪地方裁判所では、現金または預貯金のうち99万円までは生活費に必要として、財産の総額から除くことができます)。
通常は退職予定はないので、①の8分の1と評価されます。ほとんどのケースが①に該当します。
仮に退職した場合の退職金が800万円としても、100万円の評価になるので、だいぶ価値は減ってくれます。
ただし、定年が近い場合は、その退職金がもうすぐ現金となるわけなので、4分の1に評価されてしまいます。
800万円の退職金ですと200万円です。
定年が近くなっている場合は、できるだけ早く個人再生の申請をした方が8分の1になりやすいので得です。
個人再生で清算価値に組み込む必要のない退職金
退職金的性質の給付金でも現在の財産として清算価値に計上する必要がないものもあります。下記の給付金などです。
- 確定拠出年金
- 確定給付企業年金
- 厚生年金基金
- 中小企業退職金共済など
これらの給付金はそもそも個別の法律で差し押さえが禁止されています。そのため、毎月積み立てをしていても、財産として清算価値に計上する必要はありません。
個人再生では退職金の証明書が必要
退職金の証明書
上記のように今後の返済額を決定するにあたって退職金は重要です。
そのため、退職金額について自己申告だけでは駄目で、その額を裏付ける証拠も提出する必要があります。
具体的には退職金の額について勤務先に今会社を辞めたらいくらの退職金がでるかの証明書を作成してもらうという事になります。
退職金証明書 当社が当証明書発行日現在で下記従業員に支給する予定の退職金は下記のとおりです。 記 ・従業員の氏名 甲野太郎 ・退職金の支給予定額 金 円 令和 年 月 日 ・所在地 大阪市〇〇区〇〇番地 ・名称 △×商事株式会社 代表取締役〇〇 会社の印鑑 |
退職金規程
ただし、勤務先に上記のような退職金証明書を作成してもらうのは頼みづらいという方もいらっしゃるでしょう。
その場合は代替手段として、退職金の規程でも大丈夫です。
就業規則には退職金の事について定められているページがあります。その規定を見ると、何年勤めていて、どういった役職なら退職金はいくらになるかといった計算の根拠となる規定があります。
この規定をもとに、退職金の額を計算をして清算価値に計上をすればよいでしょう。
退職金証明書の不要なケース
退職金の証明書は必ず必要というわけではございません。下記のケースでは提出は不要です。
現在の勤務先に就職してあまり年月が経っていない場合
就職したばかりでしたら、退職金がない事が明らかだからです。
裁判所にもよりますが、大阪地方裁判所の場合は、就職から5年経っていない場合は、一律退職金の証明書の提出は不要として運用されております。
アルバイトやパートの場合
また5年を超える場合でもアルバイトやパートの場合は、通常退職金はでません。
そのため、退職金の証明書も不要です。
ただし、アルバイトやパートである事の証拠として、労働契約書や労働条件通知書等の書類を裁判所へ提出した方がよいでしょう。
なければ、勤務先に請求すれば発行してくれます(会社は労働条件通知書等を発行する義務があります)。
個人再生のより詳しい解説は個人再生相談サイトへ